未来のミライ 舞台探訪

探訪日:2018.03.18(予告編・富山)、2018.06.09(東京駅)、2018.07.21(根岸、横浜市電保存館、横須賀)、2018.07.22(板橋、三浦)、2018.07.29(金沢区~磯子区周辺)、2018.07.31(東京駅2回目)、2018.08.04(小岩井農場)、2018.08.05(長野県上田市)、2018.08.10(富山2回目)

 2018年は、2006年の「時をかける少女」以来3年おきにやってくる細田守監督の新作の公開年です!今年の作品は「未来のミライ」。4歳の男の子『くんちゃん』と、未来からやってきた妹『ミライちゃん』のきょうだいが織りなす不思議な冒険を描いたこの作品。今作も細田監督らしさが随所に溢れた素晴らしい作品でした。
 細田作品は毎回現実に存在する場所を物語の舞台として用いるのも特徴のひとつですので、聖地巡礼界隈としては今度はどこだ、という点も大きな注目ポイント。2017年12月の製作発表の時点で、「今回の舞台は横浜市の磯子区・金沢区周辺」と明言されていました(情報元)。しかし本作は「見たこともない世界」を「時間も空間も超えて」冒険する物語。となると、登場するのは横浜だけに限らないのでは…… そう漠然と思っていたら案の定、東京駅や富山県のローカル駅までもが登場しました。
 本ページでは3月の予告編公開の時点から、判明したポイントを随時紹介してきましたが、公開後も全国各地に散らばる舞台モデル地を実際に巡って写真に収めてきました。本記事では実際の風景の紹介だけでなく、作中で描かれた様々な時代の各地の様子を実際に感じ取れるよう、作品の設定に関わる当地の歴史についても深く掘り下げつつ、舞台を紹介していきます。

(2019.07.12 更新)本作のメイン舞台である横浜市磯子区・金沢区周辺についての記述と写真を追加しました。

掲載地点一覧
根岸森林公園横浜市磯子区・金沢区周辺横須賀市 船越、馬堀海岸、走水三浦市板橋区立熱帯植物館長野県上田市小岩井農場富山地方鉄道 越中中村駅東京駅

根岸森林公園

 本作は横浜市磯子周辺などが舞台、といいつつも、ほとんどが家の中や謎の空間で繰り広げられる物語です。冒頭のくんちゃん達の家周辺を俯瞰するカット以外で明らかに横浜と分かる景色が最初に登場するのは、中盤のくんちゃんが自転車の練習をするシーン。その公園は横浜市中区にある根岸森林公園です。広大な芝生の奥に古い作りの競馬場廃墟が聳え立っているのが非常に独特な景観となっています。公園内は基本的に自転車禁止ですが、くんちゃんのように子供が自転車の練習をするのはOKと書いてあったので、実際にあそこで練習する子もいるのかもしれませんね。

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くんちゃんが自転車の練習をしている根岸森林公園。

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他の子供達がくんちゃんのもとにやってきたときの構図。

 芝生の奥にそびえる競馬場廃墟は「旧根岸競馬場一等馬見所跡」という名前で、その名の通り馬を見る場所、すなわち競馬場の観客スタンドとして1929年(昭和4年)に建てられたものです。競馬場自体は第二次世界大戦中に休止されて以来、再開されないまま廃止となっており、他の施設も全て解体されてしまっていますが、この一等馬見所のみ現存しています。近代建築遺産という扱いで、一応保存されているということになっているようですが、実際のところ何もされずただ放置されているので廃墟といっていいシロモノでしょう。写真だと分かりづらいかもしれませんが結構な高さがあり、芝生が広がる公園の中に突然聳え立っているのはなかなか不思議な景色でした。

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芝生広場の奥に聳える旧根岸競馬場一等観覧席の廃墟。

 公園のベンチに英語を話す女性が座っていますが、これも実際の立地を反映した演出です。
 第二次世界大戦中の競馬場休止後、コースなどがあった敷地は米海軍により接収され、ゴルフ場や住宅として利用されていました。敷地の大半はのちに日本に返還されて根岸森林公園となっていますが、2018年現在でも敷地の一部はアメリカ海軍関係者向けの住宅として利用され続けています。そのためこの公園周辺にはアメリカ人の姿も多く、作中で描かれたように公園のベンチでくつろいでいる姿も実際よく見られる光景です。

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くんちゃんの自転車練習に付き合ってお父さんが右往左往する横で金髪の女性がくつろいでいるカット

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適当な比較画像がないので同じような写真が並びますが、右隣に街灯がある様子も忠実に描かれています。

 この根岸競馬場観覧席の廃墟は、自転車練習のシーンの他に、若かりし頃のひいおじいさんと一緒に馬に乗ったシーンでも登場しています。関連書籍によると乗馬シーンの風景は三浦半島の丘陵地帯を参考に描かれたそうですが、作中での設定位置としてはどうもくんちゃんの家付近での出来事ということになっているようで、くんちゃんが馬上からこの廃墟を見つけるという描写が登場します。
 時間を遥かに飛び越えた不思議な体験をしているくんちゃんですが、この廃墟を見つけたという描写は、くんちゃんが今居る場所は同じ横浜なんだと理解する重要な意味を持つシーンだと思います。細田監督が根岸森林公園を自転車のシーンの舞台に選んだのは、この廃墟が「過去と現在を繋ぐ」重要なアイテムとして使えると考えたから、ではないでしょうかね。

 さてこの廃墟、実際にくんちゃんの家付近から見えるのか?というのが気になったので、実際に確かめてみました。くんちゃんたちの家があると設定されているのは磯子区と金沢区の境界付近、京急の線路が通る辺りになりますが、その近くの高台にある「富岡総合公園」内の「北台展望台」に行ってみたところ、臨海部のクレーンが若干ジャマではありましたが、予想通り一等馬見所跡を遠くに見ることができました。現在は高層マンションなども建ち並び、作中のように遠くから見ることはかなわないかと思っていましたが、意外といけるようです。調べてみたところ根岸森林公園のある丘の標高が50mぐらいで、その上に高さ30mほどもある馬見所跡が建っているので、海面からの高さだと約80m、20階建て前後のビルに相当する高さがあるようで。現在のように高いマンションが全くなかった、ひいおじいさんの時代(1946年)当時においては相当目立つ、周辺地域のランドマークになっていたのではないかと想像されます。

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金沢区の富岡総合公園・北台展望台から見た根岸競馬場跡の廃墟。5kmほど距離があるので肉眼だとかなり小さいですが、望遠レンズで撮るとこの通りはっきり見えています。

 ただ作中で描かれた遠景はちょっと角度が違う感じ。適当な位置に見晴らしのいい場所がないのでそこまでの再現はできませんが、根岸森林公園すぐ近くの住宅街から眺めると、屋根の隙間に似た角度で見ることができました。

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根岸森林公園近くの住宅街から見た競馬場跡

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横浜市磯子区・金沢区周辺

 つづいて、くんちゃんたちが住む家がある、横浜市磯子区や金沢区周辺の風景を紹介します。
 作中何度か、くんちゃんたちの住む家の付近を空から写したようなシーンが描かれますが、その画を詳しく見てみると、くんちゃんたちの家は金沢区の富岡付近にあることが窺えます。実際にあんな特徴的な家があるわけでもなく、設定位置は至って普通の住宅街ですので詳細は割愛しますが、京急線と国道が揃ってトンネルに入るあたり、というのが空撮画像のカットから分かると思います。

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京急線と国道16号が並んでトンネルに入る辺り。くんちゃんたちの家はこのすぐ近くにあります。

 本作は公開前から金沢区・磯子区エリアが舞台であると明言されていましたが、ほとんどが家の中の描写で、現代のこの周辺の景色はほとんど描かれませんでした。しかし、くんちゃんがひいおじいさんと馬やバイクに乗ったシーンでは、公開年(=作中の時代)よりおよそ70年さかのぼった、第二次世界大戦終戦直後の1946年頃の磯子区・金沢区周辺の風景が描かれました。そこでここからは、当時の古地図などを参考にしながら現在の対応する場所を歩き、当時の様子を想像してみたいと思います。

 スタートはJR根岸線磯子駅から。ここはひいおじいさんのシーンではなく、くんちゃんが未来の自分と出会ったシーンで登場しました。といっても出てきたのは名前だけで、景色そのものは全然別の場所、富山県滑川市にある富山地方鉄道越中中村駅がモデルになっています。越中中村駅については次の項目で紹介するとして、ここでは実際のJR磯子駅の風景を紹介します。

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実際の磯子駅。作中で書かれたのは富山にある越中中村駅です。

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ホームの様子。根岸線・京浜東北線を走る車両は作中通りですね。

 磯子駅から国道16号線(横須賀街道)に出て10分弱ほど歩くと「屏風ヶ浦」という名前の交差点に出ます。ひいおじいさんがくんちゃんを乗せてバイクで走ったシーンの中に、路面電車と並走しながら海沿いの道を走るというカットがありましたが、その場所は現在の屏風ヶ浦交差点付近から南側・杉田方面を見た景色なのではないかと思われます。
 現在横浜に路面電車は走っていませんが、1972年(昭和47年)4月までは市電が運行されていました。最盛期には北は生麦から南は杉田まで、総延長約52kmに及ぶ路線網が形成されており、横浜市民の重要な足として活躍していました。
 本作の舞台となった磯子区周辺にも路線が伸びており、この国道16号線の真ん中にも、現在のJR新杉田駅近く、根岸線の高架をくぐった少し先あたりにあった杉田電停まで市電の線路が引かれていました。(杉田線)
 またこの辺り、現在は国道16号よりさらに海側に産業道路、JR根岸線、首都高湾岸線が通り、さらにその先には広大な敷地を有する石川島播磨重工の工場が立地しているため海などまったく見ることはできませんが、このような景色になったのは実は昭和30年代前半の話。それまでは「屏風ヶ浦」の地名の通り、現在の国道16号線が海沿いを走っており、そのむこうの海では漁業や海苔の養殖などが行われている、大変のどかな風景が広がっていたといいます。(参考:横浜市ホームページ 磯子区の歴史「漁場が埋立地になった」
 そんな歴史を踏またうえで、終戦直後の地図や航空写真を見てみると、ちょうどこの屏風ヶ浦付近で国道が海岸線そのものになっていることが分かるかと思います。(参考:今昔マップ) ここでまた作中で描かれた様子を見てみると、路面電車の走る道路が海岸線となっている様が描かれています。地図を見ると他にこのようになっている場所はないので、このシーンは現在の屏風ヶ浦付近だろう、と推測できます。

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 なおこのシーンで見える市電の車両、これもおそらく実在のものをモデルに描かれたものです。モデルはおそらく横浜市電の500型電車です。エンドロールにも協力としてクレジットされている、横浜市電保存館で実際の車両を見ることができます。

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横浜市電保存館の旧横浜市電500型

 展示されている車両は前面屋根すぐ下にある尾灯が右側しかなく、屋根上の集電装置もビューゲル(パンタグラフの親戚)が搭載されていますが、作中では尾灯が二つで集電ポール搭載という形状で描かれています。市電保存館の解説を見るに、昭和21年の作中の時代ではどうやら本当に作中に描かれた通りの姿で走っていた模様。いろんなところにこだわりの見える細田作品ですが、この辺りもそのこだわりを感じられるポイントのようでした

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市電保存館の500型解説。この写真の状態が作中のに最も近いようです。

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左が作中で描かれた集電ポールで、右がビューゲル。

 さて市電と併走したあともバイクは走り続けます。大通りが大きくカーブしており、その先はトンネルに続いているのがわかるカットがありましたが、そのカーブは現在の杉田交差点付近でしょうか。この先に続くトンネルは、先ほど紹介したくんちゃん家近くのトンネルです。

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国道16号杉田交差点。ここもおじいさんとくんちゃんがバイクで通過したハズです。

 ひいおじいさんは戦時中、磯子の埋め立て地にある飛行機の会社に勤めていたという設定がありますが、その工場の場所もちょうどこの辺り。現在の日本飛行機横浜製作所のことだと思われます。実際にこの工場は戦前の昭和9年(1934年)からこの場所にあるようで、旧海軍、陸軍の航空機とその部品を製造していたそうです。戦後も日本初の国産機「YS-11」のモックアップ(実物大模型)が初お披露目された場所となるなど、日本の飛行機の歴史において非常に重要な役割を果たした工場のようです。実はさきほど紹介した「富岡総合公園」はこの工場に隣接する位置にあり、戦時中は旧日本軍の横浜海軍航空隊の基地となっていました。このように本作の舞台である金沢区富岡周辺は、日本の航空産業の歴史と深い関わりがあるエリアなのです。

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近くの高台から眺める日本飛行機の工場群。

※参考資料
バイロメディア「[日本の翼YS-11] 横浜の杉田で11日に会いましょう!」
三井住友トラスト不動産 このまちアーカイブス 神奈川県港南台・磯子・金沢

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横須賀市 船越、馬堀海岸、走水

 市電のカットから更にひいおじいさんのバイクは国道16号を南下して、横浜市から横須賀に入ります。映画本編では特に言及ありませんでしたが、小説版ではその経路が実在の地名を使って詳しく描写されていたので、そちらを参考に現地を巡ってみました。映画本編で描かれた風景はもちろん1946年の様子を想像して描かれたものですが、よく見ると現在の景色を元にしているのがわかってなかなか面白いです。

 まずはひいおじいさんのバイクがトンネルを抜けるシーン。予告編にも登場していましたが、小説版の記述によるとこれは国道16号線の船越隧道だったようです。磯子方面から走ってきている描写なので、京急田浦駅のある船越の集落側入口から入る事になるわけですが、「オフィシャルブック」に掲載された場面カットを元に詳細に見比べてみると、確かに2本のトンネルが微妙にズレて配置されており、左側にお寺があるという実際の景色とよく一致することが分かりました。

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国道16号線船越隧道の船越側入口

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トンネルを抜ける様子を再現。歩道があって歩行者も通れます。

 トンネルを抜けた次のシーンではクレーンの並ぶ横須賀本港を走り抜けるカットに繋がりますが、実際にはJR田浦駅付近にあるさらにいくつかのトンネルを越えた先になります。

 更に進むと景色は一変し、海沿いの田舎町といった感じのエリアに出ます。こちらも小説版に記述があり、馬堀海岸やその先の走水辺りを走行しているという設定のようです。黒船来航で知られる浦賀のすぐ近くにある海岸です。パンフレットに掲載されている、遠くに丘が見える海沿いの道はこの辺りのイメージでしょうか?

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馬堀海岸

 馬堀海岸からさらに国道16号線を走ると走水の集落に出ます。こちらは「オフィシャルブック」に地名が明記されていました。

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走水付近の様子。作中カットのように俯瞰できる場所を探したけど見つけられなかったので下から…

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走水付近の国道16号線

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東京湾に浮かぶ船のカットもこの辺のイメージでしょうか

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作中カット関係ないですけど、この辺りの東京湾の景色はなかなかきれいでした。

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三浦市

 バイクのシーンから少し戻って再び乗馬のシーン。作中の設定位置的には磯子付近だと思いますが、1946年の風景を描くに当たっては三浦市の丘陵地帯をイメージモデルに使っているそうです。関連書籍「スタジオ地図Walker」でくんちゃん役の上白石萌歌さんが実際に乗馬をするコーナーで紹介されていたのを元に、作中の風景の再現を試みてみました。
 誌面の写真を参考にすると、どうやら京急三浦海岸駅から十数分ほど歩いた丘陵地帯にある畑のあたりが舞台モデル地になっているようです。エンドロールにもクレジットされていた「ホーストレッキングファーム三浦海岸」もすぐ近くで、実際に乗馬体験ができるそうです。

 なお、このエリアに訪問される場合、畑には決して入らないようにしてください。靴の裏に付いた畑の外の土が持ち込まれることで、農作物に対する病原菌が広がってしまう可能性があります。そもそも私有地ですので、持ち主の許可なく入ることはできません。また畑以外の公道部分も、それほど広くはない道ですが農作業用の軽トラックなどが通過しますので、訪問の際は十分に注意してください。

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三浦市の丘陵地帯。時期が悪くて何も植えられておらず景色の印象は違っていますが、奥の山並みなどわりと似ている気がします。

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別アングルにはなりますが作物が植わっているところを撮ると全体の印象も近いかと。

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「スタジオ地図Walker」誌面で上白石萌歌さんが乗馬していた写真はここ。

 バイクのシーンで登場した長閑な漁村のカットも、もしかしたら三浦海岸付近がモデルかもしれません。海水浴場として賑わう三浦海岸の最南部を撮ってみると、奥に見える丘の形はわりとよく似ていました。

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金田湾を望む三浦海岸。漁村のカットはここ?

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三浦海岸の様子。

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板橋区立熱帯植物館

 くんちゃんが未来のミライちゃんと出会った熱帯の植物が茂る温室の庭、これにもモデルがあるそうです。このシーンの背景美術は、板橋区高島平にある板橋区立熱帯植物館をロケハンして得たインスピレーションを元にイメージを膨らませて製作されたとのこと。実際の景色がそのまま登場したわけではありませんが、かなり似た光景も見られ、雰囲気は結構感じることができました。

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ヒスイカズラのアーチ。ここのイメージはほぼそのまんまですね。

 以下いろいろなカットを再現…したつもりでw あくまでイメージの元ネタとなった程度なので他のカットのように「一致」と言えるモノはほとんどないので、雰囲気を感じる程度で。

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作中の温室は円形のドームのようですが、熱帯植物館のドームは形が違います。

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ゆっことくんちゃんが隠れている茂みに生えているのはこれでしょうか。葉が大きく裂ける様から「ヒトデカズラ」という和名がある植物です。

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バナナの葉っぱ。それっぽい葉っぱは何度か書かれてた印象です。

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熱帯植物が鬱蒼と茂っていますが、作中で描くに当たってはジャングルのように茂りまくった印象にはならないよう気をつけた、とのことです。

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館内には熱帯の魚類も展示されています。作中でも熱帯魚の泳ぐ水槽が登場していますが、なんとなく似た水槽もありました。(なお水槽のモデルは別に存在しています。)

 板橋区立熱帯植物館は都営三田線高島平駅から徒歩7分です。入館料は大人260円。「未来のミライ」に登場した熱帯の庭の雰囲気を感じられるだけでなく、色鮮やかな熱帯の花や、マンゴーやパパイヤ、コショウやシナモンなど食材としては馴染み深いけど全体像は意外と見たことがないような植物なども見られてなかなか面白い場所でした。

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長野県上田市

 舞台は横浜から大きく離れた場所にも存在します。くんちゃんが少女時代のお母さんと出会うエピソードの舞台には、長野県上田市が選ばれました。細田作品で上田と言えばやはり「サマーウォーズ」ですね。毎年7月最終土曜の「上田わっしょい」では「サマーウォーズ連」が登場するほか、その前後では上映会などのイベントが行われる「聖地」としての取り組みが、公開から9年たった2018年でもまだ続いています。(関連:サマーウォーズの里 信州上田探訪)
 「未来のミライ」では、くんちゃんのおかあさんの故郷がこの街という設定。彼女が幼少期を過ごした1990年代の街並みをイメージした背景画が描かれていました。
 くんちゃんが過去の上田にやってきたシーンの最初のカットはこちら。フィルム現像受付など時代を感じさせる看板が並ぶ商店街ですが、これは現在の上田市役所の少し北、清明小学校近くの路地です。旧地名で言う「丸堀町」エリアで、現在の住所だと上田市大手2丁目あたりになります。このカットには元になった写真があり、こちらのサイトでその現物を見ることができます。元になった写真は昭和50年代に撮影されたものなので作中の時代設定よりはさらに10年ほど前ということになるでしょうか。当時は商店街の体を為していましたが、2018年現在ではほぼ全ての商店が廃業し取り壊され、代わりにマンション・アパートが建ち、完全に住宅街になっています。

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お母さんが少女時代を過ごした上田の街並み。現在の景色は大きく変わっています。

 見ての通り作中(および元になった昭和50年代の写真)の面影はほとんどありませんが、よーく見てみると当時と同じ建物がわずかに今も残っていることが分かります。先ほど紹介したサイトにある元写真はかなり大きく拡大できるので、そちらとも比較してみるとよく分かるかもしれません。

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枠で示した箇所が昭和50年代の写真と同じ建物。

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上図丸枠の街灯も同じモノがまだ使われています。

 雨の降る中、泣いている少女がいることにくんちゃんが気づくシーンは、作中だと同じ場所のように描かれていますが実際は全く違う場所。同じ上田市の旧北国街道沿い、常田2丁目の商店街がモデルになっています。このカットに映り込む「山岸時計店」はエンドテロップでも協力としてクレジットされていました。

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泣いている少女(お母さん)がいた理髪店のモデル(上田市常田)

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「山岸時計店」はこのカットで登場。

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少女からの視点だとこんな感じ?

 くんちゃんと少女時代のお母さんが一緒に歩いた景色もまた少し離れたところにあります。同じ旧北国街道沿いではありますが、古い街並みが今も残り、観光スポットにもなっている「柳町」にある味噌蔵「菱屋」の前です。こちらもエンドテロップに名前が出ていました。

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柳町の味噌屋「菱屋」前。作中では描かれませんでしたが、すぐ脇に細田作品ではお馴染みの「指定方向外進行禁止311-D」の標識があったので思わず入れてしまいましたww

 お母さんのエピソードだけでなく、ひいおじいさんのエピソードでも上田は登場しています。戦争で足を負傷したひいおじいさんが、のちのひいおばあさんにプロポーズしたとき、「池田醫院」の前でかけっこをしたというエピソードがありましたが、そのモデルが上田市西部、青木村との境付近にそのままの名前で実在しています。地元上田のうえだ城下町映画祭の方が特定されていました。

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ひいおじいさんのエピソードでも登場した「池田醫院」。実名そのまま。夏だと庭木が茂りすぎてて建物があまり見えていませんがちゃんと一致しています。

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のちのひいおばあさんとなる女性にかけっこを持ちかけたのはこの辺でしょうか。

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そしてかけっこのゴール地点はこの辺になる感じ?

 池田醫院のすぐ近くにある上田市立浦里小学校も、おかあさんが通っていた小学校として登場しています。古く立派な木造校舎で有名な学校で、多くの映画やCMのロケ地として使われていましたが、2012年9月に起きた火災により残念ながら全焼し失われてしまいました。(参考:うえだNavi websiteの当時の記事
 本作中でもその木造校舎が描かれていましたが、現在はこの通りその姿を見ることができません。

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以前は木造校舎のあった上田市立浦里小学校。門柱だけがその古さを留めています。

 池田醫院と浦里小学校へは上田駅から千曲バスの青木バスターミナルゆきに乗り、約30分の「出浦(でうら)」バス停で下車すると徒歩2分程度で到着できます。バスは1時間に1本ですが池田醫院周辺に30分程滞在できるダイヤになっていました。また、出浦バス停から上田市街地に戻るとき、上田駅を通り越して「房山(ぼうやま)」まで乗車すると、「菱屋」や丸堀町の路地へも徒歩数分ですのでかなり使い勝手はよいかと思います。
 リンク:千曲バス青木線時刻表

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小岩井農場

 ここは舞台というより建物の参考にしたというだけの場所ですが、岩手県雫石町の小岩井農場にある厩舎などが、1946年・ひいおじいさんの時代の馬小屋やバイク工場のモデルとなっています。
 岩手山の麓に広がる小岩井農場は、そのブランド名を冠した商品も多く販売されており、全国的にも有名なのではないかと思います。設立は明治24年(1891年)と古く、日本の近代酪農の礎を築いた農場の一つと言えます。設立間もない明治期から昭和初期までの古い建物も多く残り、しかもそれらが2018年の現在でも現役の酪農施設として稼働しているという価値が認められ、場内の建物のうち21棟は国の重要文化財にも指定されています。
 そんな古い施設の一つ、こちらの倉庫(?)はバイク工場の外観モデルでしょうか。正面の構造はとてもよく似ています。

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小岩井農場内にある施設の一つ。バイク工場のモデル?

 完全一致というわけでもなさそうですが、上丸牛舎エリアにあるこの倉庫も雰囲気はなかなか似ていました。実際の用途もトラクター等の機材置き場のようですし。

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バイク工場のモデル候補その2

 もう一つ、乗馬のシーンで登場した厩舎のモデル。こちらは重要文化財施設の一つ「乗馬厩」がモデルと見て間違いないでしょう。左右反転されていますが屋根から小さく突き出た部分があるのと、建物右側に電柱が立っているところまで完全に一致します。

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作中でも厩舎として登場した「乗馬厩」

 ここで紹介した農場内の各施設は、「小岩井農場まきば園」に入場し、さらに別料金の場内バスツアー「小岩井農場めぐり 重要文化財コース」もしくは月1回開催の重要文化財ウォークに参加することで見学できます。(上丸牛舎エリアのみツアーに参加しないでも見学できます。)
 冒頭にも書いたとおり現役の酪農施設として稼働している建物ですので、家畜の伝染病予防のため一般客の自由見学は制限されています。立ち入り禁止区域には決して入らないよう注意しつつ見学して下さい。

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観光地として開放されている「小岩井農場まきば園」の様子。晴れていれば芝生広場の奥に岩手山が見えます。

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富山地方鉄道 越中中村駅

 くんちゃんが家出しようとして迷い込んだ世界の「磯子駅」として描かれたローカル駅は、富山県滑川市にある富山地方鉄道本線の「越中中村駅」です。見ての通り小さな待合所があるのみの簡素なホームで、何本かの架線柱が立っているという光景が完全に一致します。現実には左側を併走するあいの風とやま鉄道(旧JR北陸本線)の線路が描かれていませんが、その他の部分はとてもよく似ています。
 2012年公開の「おおかみこどもの雨と雪」でも富山を舞台とした細田監督は上新川郡上市町の出身。この越中中村駅がある滑川市のお隣の町です。地元新聞によると監督がこの駅を通過した際にその雰囲気に惹かれて今回登場させることになったとのことです。

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予告編第2弾37秒付近に出てきた駅のモデル・越中中村駅。いかにもローカル線という感じの駅です。

 高校生のくんちゃんが座っていた待合室のベンチ。後ろの張り紙の中に作中では「標高3m」という文字が見えますが実際には18mだそうです。その他の掲示物も書式は似てますが配置は変わっていますね。

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待合室のベンチ

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高校生くんちゃん視点で待合室からホーム側

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駅外からの様子。大きな木が1本立っています。

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同じカットで電車を入れて。作中では京浜東北線の車両が来ますが、実際はこんなのですw

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駅名標。作中では「いそご」という事になっています。

 越中中村駅のカットは2018年3月2日に公開された予告編第2弾で既に登場しており、その半月後には一度目の訪問をし、当記事で公開しておりました。予告編のみが公開された時点での訪問だったので、本編中でどんなカットが登場するか予想していろんな角度から撮ってはみたのですが、ことごとく外しておりましたw せっかくなので、当時から公開していた周辺の様子もそのまま残しておきますw

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同じアングルで電車を入れて

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ホーム反対側から

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駅の外から。本当に簡素な駅です。

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駅前の道からは立山連峰・剱岳がよく見えます。「おおかみこども」で花さんが持ってた写真はこれに似た景色ですね。

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反対の海側には、お隣魚津市にある遊園地「ミラージュランド」の観覧車も見えます。

 越中中村駅へは、北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅で下車後、隣接する新黒部駅から富山地方鉄道でおよそ30分、運賃は660円です。電鉄富山駅からだとおよそ50分690円、「おおかみこども」の舞台上市からは25分570円です。
 またあいの風とやま鉄道(旧JR北陸本線)東滑川駅からも徒歩10分かからない程度ですので、富山駅方面からは実はこちらの方が便利です。(18分、460円)

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東京駅

 物語のクライマックスで登場するのが東京駅。作中では一見するとヨーロッパの大きな駅のような構造をしていますが、案内サイン類は全て東京駅にあるモノがモチーフになっています。またトレードマークである丸の内駅舎周辺はほぼそのまま登場しています。

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東京駅丸の内駅舎の夜景

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東京駅のドームからふたりが飛び出すシーン。ビルの配置は若干違うかも?

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駅名標は京浜東北線大宮方面のもの。

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謎の駅員さんがいたところは駅舎のドームあたりがモチーフでしょうかね。

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更新履歴
初回記入:2018.03.22
東京駅、根岸森林公園の写真を追加:2018.07.15
公開に伴い内容一新:2018.07.22
根岸森林公園の項目に追記、板橋区立熱帯植物館の写真を追加:2018.08.21
横須賀、三浦市の写真を追加:2018.08.27
長野県上田市の写真を追加:2018.08.29
小岩井農場、越中中村駅の写真を追加:2018.09.06
横浜市磯子区・金沢区周辺についての写真と記述を追加:2019.07.12