花咲くいろは 舞台探訪~秀峰閣の最終日

探訪日:2018.03.17~18

 2018年3月17~18日、「花咲くいろは」に登場した金沢・湯涌温泉の旅館「秀峰閣」が、最終営業日を迎えました。地域と作品ファンを結んだ一大拠点の終幕に、このたび運良く立ち会わせていただくことができましたが、作品本編の最終話で「喜翆荘」が閉館したラストシーンとも重なって、とても感慨深い体験でした。こうして最終日に同席できたのも何かのご縁かと感じ、花いろの聖地に秀峰閣という宿があったという記録の意味と、これまで多くの花いろファンを迎え、聖地を盛り上げて下さったことのお礼の意味も込めて、営業最終日の模様を記事にまとめて紹介したいと思います。

秀峰閣最終日

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湯涌温泉 新右ヱ門 秀峰閣

 このページに興味を持って下さった方には今更な内容かと思いますが、一応背景から解説します。「花いろ」の略称でお馴染みのアニメ「花咲くいろは」は、2011年4月から半年間にわたってテレビ放映され、後に劇場版も製作された人気作です。岸田メルさん原案によるかわいらしいキャラクターたちや、岡田麿里さんによる骨太なストーリーなど、様々な点で話題となったこの作品ですが、作中の温泉街のモデルとなった実在の温泉地が「聖地」として大いに盛り上がったことでも注目を集めました。
 作品の主要な舞台である「湯乃鷺温泉」のモデルとなったのは、北陸・石川県金沢市にある「湯涌温泉」。金沢駅からバスで40分の山あいに位置し、温泉街の端から端までゆっくり歩いても15分程度、宿もわずか9軒しかない、「鄙びた温泉地」を絵に描いたような小さな温泉地です。

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湯涌温泉街の入口

 そんな場所ですが、アニメの放送と共に「聖地」としての人気が急上昇。「花いろ」のファンが自発的に続々と訪れるようになっただけでなく、温泉街も作品公式を巻き込んでファンを出迎えるための様々なイベントを企画。中でも、作中で描かれた架空のお祭り「ぼんぼり祭り」を実際に挙行し、さらには毎年の恒例行事として定着させてしまったと言う快挙は、昨今の聖地巡礼ブームを語る上で外せない事例と言って間違いないでしょう。

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平成29年(2017年)にはもう7回目を数えた「ぼんぼり祭り」のポスター

 このたび惜しまれつつ閉館された「新右ヱ門 秀峰閣」は、作中の湯乃鷺温泉街随一の旅館、「ふくや」のモデルとなった旅館です。主人公・緒花たちが働く「喜翆荘」は、放送の時点で既に廃業した旅館をモデルとしていたのに対し、「ふくや」の方はモデルとなった本館が比較的近いイメージのまま現実の湯涌温泉に実在しています。そのため、作中でメインの舞台として描かれる喜翆荘とはライバル関係に当たる存在ですが、作品世界を最もよく感じられる場所として、花いろファンの間では特に大きな人気を博していました。

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「ふくや」のモデルとなった秀峰閣

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正面玄関付近はこの通り、かなり実物と近いイメージで描かれています。

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営業最終日の朝日を浴びる「秀峰閣」の文字。本編中にも似たカットがありました。

 湯涌では地域全体を挙げて「花咲くいろはの聖地」を盛り上げて下さっていますが、その中にあってやはり秀峰閣の存在感は大きなものがあります。宿の方が聖地巡礼にやってきたアニメファンに対し非常に好意的であったのみならず、先述のぼんぼり祭りなど、温泉街を挙げての大イベントも積極的に推進してくださっていたもよう。湯涌温泉を「花いろの聖地」として有名にした立役者の一人と言ってよい存在だったようです。そのような場所でしたので、閉館と聞いたときは驚きましたし、とても残念でした。でももう放送から7年も経つわけですし、それだけ時間が過ぎればそういうこともありえますよね…

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ロビーのテレビで上映される花いろ本編。有志が持ち込んだ、地元CATVで放送されたときの録画だそうで、間には地方色豊かなCMが入っていましたw

 館内には至る所に花いろ関連グッズが展示されているのですが、これらは秀峰閣とファンが紡いできた、7年間にわたる湯涌温泉と花咲くいろはという作品の繋がりの歴史そのもの。これらの行く先も今後気になるところです。

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エレベーター脇にも花いろ関連グッズが多数。なんか違うのも混ざってますがw

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2階の大宴会場脇には花いろ関連のポスターやグッズ、ファンからの寄贈品が所狭しと並べられた「花咲くいろはギャラリー」なるスペースも作られていました。

 7年という短くない時間が流れると、もはやすっかり宿の方と顔馴染みになっている花いろファンも多かったりするわけで。3月18日に迎えた最後の朝には、「花咲くいろはファン」であるとともにすっかり「秀峰閣ファン」にもなった有志一同より、今までお世話になった感謝を込めて、こんな贈り物をしたシーンなどもあり、盛大なフィナーレとなりました。同じ岡田麿里作品だしかぶせてみるなら「さよならの朝に約束の花(いろ)をかざろう」みたいな感じですかねw

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有志一同による寄せ書き横断幕

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最終日前日に宿泊されていたイラストレーターの瀬之本久史さん( @senomotomb )も色紙を寄贈されていました。

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こちらは前日、宴会の場にて女将さんに贈られた秀峰閣の写真を使ったモザイクアート。花いろ好きが高じて秀峰閣に仲居として就職してしまったと新聞等でも取り上げられたこうちゃん( @KoUtarOu05 )の力作です。

 僕自身は秀峰閣2回目でしたが、今回集まった超ヘビーユーザーwな方々と宿の方とのやりとりを見ていると、完全に「馴染みの常連客」という感じの間柄になっているのがとても印象的でした。湯涌のような山奥の鄙びた温泉は常連の固定客が多いイメージだけど、その点はアニメの聖地として人気を博しても変わらないんだなと感じました。聖地巡礼者も普通の温泉客も、最初のきっかけが違うだけで何も変わらないって事ですかね。「花咲くいろは」というアニメがあったおかげで、その「きっかけ」が増えて、新しい客層が増えたというだけで。聖地としての成功とはなんぞやみたいな議論がよくありますけど、ここ湯涌温泉については、秀峰閣を始めとする各温泉宿が今までやってきたのと同じように来客をもてなし、そして常連として取り込んでいったのが「成功」の秘訣だったのかな、などと思った滞在でした。

 多くの花いろファンに愛された「秀峰閣」の名前はなくなってしまいましたが、ここで築かれたファンと湯涌温泉という地域の繋がりが消えて無くなるわけでは決してないでしょう。「ぼんぼり祭り」も引き続き開催されるようですし、今後も湯涌温泉が「花いろ」の聖地であることに変わりはありません。放送から時間も経ちましたし、立ち寄る頻度が減ってしまう人はいるのかもしれませんが、常連となったファンが何かの折に思い出してはふらりと訪れる、そんな温泉地であり続けるのだと思います。

 最後になりましたが、最終日まで変わらぬ最高のおもてなしをいただいたこと、そして、これまで長きにわたり花いろファンを出迎え、聖地を盛り上げて下さったこと、一ファンとして感謝したく思います。本当にありがとうございました!

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更新履歴
初回記入:2018.03.21 (Twitterに投稿した一連のツイートを元に加筆修正)